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うつ状態を磁気の力で改善

双極性障害への反復経頭蓋磁気(けいずがいじき)刺激療法(rTMS)
国立精神・神経医療研究センター

( 2019/12/13 )

 双極性障害は、気分の波が「躁(そう)」と「うつ」の状態を示す、経過の長い病気です。薬を使って治療を行いますが、薬が効かず、長期にわたってうつ状態に苦しむ患者さんもいます。2019年3月、双極性障害のうつ状態に対する新たな治療法として、「薬物療法に反応しない双極性うつ病への反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)」が先進医療として指定され、臨床研究が始まりました。rTMSの仕組みや長所、先進医療の流れなどについて、国立精神・神経医療研究センター病院 精神科医長の野田隆政先生に伺いました。

ポイント

  • ・ 双極性障害の治療には主に薬が使われるが、患者さんによって効く薬や効果が異なる。自分に合った薬が見つからず、長期にわたって苦しむ患者さんも多い。
  • ・ rTMSは、磁気や電気などの刺激によって神経の働きを調節する「ニューロモデュレーション」という治療法の一つ。磁気の刺激により、脳の神経の働きを調節することで、双極性障害のうつ状態の改善が期待される。
  • ・ 双極性障害のうつ状態に対するrTMSは、先進医療Bの制度の下、2019年11月27日現在、全国3施設で実施されている。薬が効かない患者さんに対する新たな選択肢として期待される。

診断・治療いずれも難しい双極性障害

 双極性障害は、気分が異常に高揚する「躁」状態と、無気力になり落ち込んでしまう「うつ」状態を示す病気です。以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。躁状態の度合いによって、I型(躁状態が重い双極性障害)と、II型(躁状態が比較的軽い双極性障害)に分けられます。


 双極性障害は診断が難しい病気です。双極性障害の患者さんが、躁状態なしにうつ状態を長年繰り返していると、うつ病と診断されることがあり、躁状態が現れた時点で初めて双極性障害と診断されます。また、患者さんも、軽い躁状態が表れても「症状」だと認識せず、むしろ「調子が良い」と判断して医師に伝えないことがあります。双極性障害とうつ病は別の病気で、治療方法も異なります。正しく診断されないことで、適切な治療を受けられず、なかなか治らないまま長い年月が経過してしまうこともあります。


 また、双極性障害は、正しく診断されても、治療が難航する場合があります。双極性障害の治療には、主に「気分安定薬」を使います。最近では、統合失調症の薬が双極性障害にも効くことが分かり、処方できる薬の種類は広がっていますが、どの薬が効くかは患者さんごとに異なり、相性の良い薬が簡単に見つかるとは限りません。自分に合う薬がなかなか見つからず、長期にわたって苦しむ患者さんもいます。

磁気で脳の神経を刺激し、うつ状態を改善

 薬が効かない双極性障害のうつ状態に対する新たな治療法として期待されているのが、反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)です。rTMSは、磁気や電気などで神経を刺激して、神経の働きを調節する「ニューロモデュレーション」と呼ばれる治療法の一つです。


 rTMSでは、頭部に8の字形のコイルを当て、電流を流します。電流によってコイル周辺に磁場が生まれ、それにより脳内にも微量の電流が生じます。この脳内に発生した電流が脳を直接刺激することで、うつ状態の改善につながります。侵襲(しんしゅう)なく(体を傷つけることなく)脳を刺激することができるため、体への負担が少なくなります。rTMSは、磁気を使って脳の内部に電流を起こすため、皮膚や骨などの物理的な影響を受けにくく、効果的に治療を行うことができます。



rTMSの仕組み rTMSの仕組み

1. コイルに電流を流す。
2. 磁場が生まれ、脳内にも微量の電流が発生する。
3. この電流が脳を刺激することで、うつ状態を改善する。



反復経頭蓋磁気刺激装置

反復経頭蓋磁気刺激装置

(野田先生ご提供)

 今回、先進医療として指定されたrTMSでは、右頭部にコイルを当てて、脳の「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」という部位に1ヘルツの磁気刺激を与えます。この部分は、うつ状態のときに過活動になっている部位で、刺激により活動が抑制されます。これにより、バランスが悪くなっていた脳の部位との連携が、スムーズになっていきます。複数回の磁気刺激を行うことで、脳の状態が正常化され、うつ状態からの改善が期待できます。

 双極性障害に対してrTMSが広く使えるようになると、外来で受けられる治療の選択肢が増えます。薬以外の治療法として、重い双極性障害の場合には、電気けいれん療法(ECT)という治療法もありますが、基本的には入院して全身麻酔をかけて行う必要があります。rTMSは、ECTを行うほど重度ではないものの、薬が効かない患者さんに対して、入院せずに受けられる新たな治療法として期待されます。


双極性障害に対するrTMSの流れ

 rTMSは、薬の効かないうつ病に対して2019年6月に保険適用されましたが、双極性障害は対象となっていません。そこで、双極性障害に対する保険適用を目指して、2019年3月から先進医療Bとして臨床研究が始まっています。これは、薬の効かない双極性障害のうつ状態の患者さんを対象として、実際の磁気刺激と偽刺激(※)を比較することで、rTMSの有効性と安全性を調べるものです。
※偽刺激:見せかけの刺激のこと。この臨床研究では、実際に磁気刺激を行った場合と、磁気を発しない偽刺激を行った場合を比較することで、実際の磁気刺激の方が優れていること、磁気刺激が安全であることを検証。

今回の臨床研究の対象となるのは、以下の条件をすべて満たす患者さんです。

(1) 精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, DSM-5)の双極性障害(I型、II型を含む)、抑うつエピソード(抑うつの症状が認められる状態のこと)の診断基準に合致する(急速交代型[※]である場合は除く)。
※急速交代型:躁状態やうつ状態を短いサイクルで(1年に4回以上)繰り返す状態。

(2) 年齢が20歳以上75歳以下

(3) HAMD17(ハミルトンうつ病評価尺度:うつ症状の重症度を測定するための評価尺度)の総得点が18点以上

(4) 最近の抑うつ状態の期間が3年未満

(5) 現在の抑うつ状態において、次にあげる薬物療法のいずれかを8週間以上投与しても反応しない

1.リチウム0.8mEq/L以上の適切な血中濃度となる処方量 /日

2.クエチアピン300mg /日

3.オランザピン5~20mg /日

4.ラモトリギン200mg /日

 まず、医師が診察を行い、対象となるかどうか確認します。対象となった患者さんは、週5日、4週間にわたってrTMSを受けます。rTMSにかかる時間は、1回30分程度です。その後、3週間かけてrTMSの頻度を少しずつ減らし、28週間にわたって症状の経過を観察・評価します。rTMSを受けている間や観察期間も、薬の服用は並行して行います。

さまざまな側面で期待されるrTMS

国立精神・神経医療研究センター病院 精神科医長 野田隆政先生

国立精神・神経医療研究センター病院
精神科医長 野田隆政先生

 現在、この先進医療が受けられる医療機関は、野田先生の所属する国立精神・神経医療研究センター病院のほか、東京慈恵会医科大学附属病院、慶應義塾大学病院の計3施設です。臨床研究のため、治療を受ける際、先進医療に関連する部分については、患者さんの費用負担はありません。rTMS以外の検査や治療については、保険診療となります。

 双極性障害に対するrTMSの臨床研究のうち、公的に認められたものはおそらく世界で初めてです。「日本から世界に発信する新たな治療技術として期待しています。信頼性の高い研究を行うために、質の高い医療が提供できる施設で、厳密な管理体制のもと臨床研究を行っています」(野田先生)。

 双極性障害によりうつ状態の期間が長く続くと、人生でかなりの時間を苦しみの中で過ごすことになってしまいます。また、患者さんやご家族がつらいのはもちろんのこと、社会的にも経済的にも大きな損失です。rTMSが双極性障害に対して効果的かどうかは臨床研究の結果を待つ必要がありますが、効果が示されて将来的に保険が適用されれば、患者さんの人生が改善するとともに、社会への貢献にもつながり、意義の大きな治療法となります。

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