医学・医療最前線

血液1滴で13種類のがんを診断
( 2026/06/26 )

 血液1滴で13種類のがんを早期発見できる方法があることが分かり、実用化が進められています。その方法とは、血液中の「マイクロRNA」を調べる、というものです。がん細胞は、早期のうちからマイクロRNAという小さな物質を放出しており、これをキャッチすることでがんの存在を探ります。詳しい仕組みと今後の展望について、東京医科大学医学総合研究所未来医療研究センター分子細胞治療研究部門特任教授の落谷孝広先生に伺いました。

ポイント

  • ・ がんの早期発見に向けて、血液だけで診断できる方法が分かってきた。「マイクロRNA」という小さな物質を調べるというもの。肺がんや膵臓がんなど13種類のがんが対象となっている。
  • ・ マイクロRNAはがん細胞が分泌するカプセルに入っているもので、がん種によって特徴がある。がんの初期から分泌されるため、早期発見が可能となる。腫瘍マーカーでは早期の発見は難しい。
  • ・ 精度も高く、早期での発見はおおむね90%以上の確率。少しずつ実用化が進められている。

がんの早期発見が難しい理由

 がんの早期発見は、健康寿命の延伸のためにも重要です。早い段階で見つかれば、多くのがんで、寛解、完治が期待できます。しかし、必ずしも早期発見できていないのが現状です。

 早期発見ができていない理由はいくつもありますが、がん検診の受診率が高くないことは一つの要因と考えられます。国立がん研究センターの推計では、がん検診の受診率は、40~50%程度です(2022年)※1。忙しくて時間がない、受診が面倒、乳がん検診のマンモグラフィ検査などでは身体的な負担を感じる……といったことから後回しになっている人は少なくないでしょう。その検査が血液1滴で可能となれば、面倒もなく受診者の負担が小さくなります。

 また、国が受診を推奨しているがん検診は「胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がん」の5種類のみ※2で、その他のがんは対象外です。人間ドックのオプション検査などで、5種類以外のがんについても腫瘍マーカーで調べる方法がありますが、この数値だけでは早期発見は難しいのが現状です(後述)。そうしたがんも、血液1滴の検査で早期発見の可能性を格段に高められます。

 血液1滴の検査で調べるのは、「マイクロRNA」という物質です。これを調べることで、前述の5種類のがんに限らず、トータル13種類のがんを鑑別できます。特に早期発見が難しいとされる膵臓がんも対象です。

マイクロRNAを調べることで高い確率で早期発見が可能となる13種類のがん

マイクロRNAを調べることで高い確率で早期発見が可能となる13種類のがん。子宮がんなどは入っていないが、データ収集と検証が進めば対象とできるようになる可能性はある

 がんを早期で発見できれば、その後の生存率は大きく違ってきます。例えば、日本におけるがん死亡数が最も多い肺がんを見ると、臨床進行度が「限局」(おおむねステージ1)では5年生存率が83.5%ですが、「遠隔」(ステージ4に相当)では6.4%となります。膵臓がんでは、「限局」で42.1%、「遠隔」で1.8%です※3。そして、膵臓がんが発見されたときの進行度は、43%がステージ4期、13%がステージ3期というデータもあります※4

がん発見時のステージと生存率の例

(注釈)

※1:国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診受診率(国民生活基礎調査による推計値)」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening/screening.html

※2:推奨されている5種類のがん検診は、「検診によって、そのがんの死亡率が減少する」という科学的根拠を国が認めているもの

※3:国立がん研究センター がん情報サービス(地域がん登録によるがん生存率データ/1993年~2011年診断例)

※4:科学技術振興機構 サイエンスポータル
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20160927_01/

マイクロRNA検査と、腫瘍マーカーの違い

 では、マイクロRNAとはどのようなものなのでしょうか。

 その名の通り、ごく小さなRNAで(構成要素である塩基の数が20~25個程度。通常のRNAは数万~数百万個)、細胞間の情報伝達を担っているものです。あらゆる細胞は「エクソソーム」という小さなカプセルを分泌しており、マイクロRNAはこのエクソソームに入った状態で血液中を流れます。

 がん細胞もエクソソームを分泌します。がんになると特定のマイクロRNAが増えたり、通常は見られない種類のマイクロRNAが検出されたりします。この変動を調べることで、何のがん種があるかが分かる、ということです。

 そして、エクソソームはがんのごく初期の頃から分泌されるので、早期発見が可能となるわけです。

細胞が分泌する小さなカプセルであるエクソソーム

細胞が分泌する小さなカプセルであるエクソソームには、マイクロRNAやタンパク質などが入っている。がんによって、マイクロRNAに特徴があり、これを捉えることで早期発見につなげる

 血液によるがん検査には腫瘍マーカーがあります。この検査で調べるのは、がん細胞が産出するタンパク質や酵素、がん細胞が壊れるときに出る物質やDNAの断片です。ただ、早期でがんが小さいうちはそうしたものが放出されないので検出が難しく、ある程度の大きさになっても数値が上がるとは限りません。一方で、良性の腫瘍でも数値が高くなることがあります。「一度の検査で数値を見てがんを発見する」というより、数値の変化を見てがんの状況を探るのに有用といわれます。

早期のがんでも90%程度を検出。データベースを公開

 マイクロRNAによる検査では、診断予測精度は高い結果となっています。全ステージで0.88(88%)、早期のステージ0から2に限っても0.90(90%)と高い性能が得られています。がんの種類別では、以下の表の通りです。

マイクロRNA検査による13種類の固形がんの診断予測精度
マイクロRNA検査による13種類の固形がんの診断予測精度

それぞれのがんが正しく診断された割合(100%が1。0.97だと97%)。早期のがんでも高精度であることが分かる(国立がん研究センターの発表より)。胆道がん、肝細胞がん、骨軟部肉腫以外は、80%を超えている。※脳腫瘍の早期については公表データなし
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2022/1207/index.html

東京医科大学医学総合研究所未来医療研究センター分子細胞治療研究部門特任教授 落谷孝広先生

東京医科大学医学総合研究所未来医療研究センター分子細胞治療研究部門特任教授 落谷孝広先生

 この研究は、「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」として国立がん研究センターを中心に進められたもので、13種類の固形がん9,921例と非がん対照5,643例、良性疾患626例の血清マイクロRNAのプロファイルを解析しました。プロジェクトが終了した後、結果はデータベースとしてすべて公開しています。これにより、どのがんで、どのようなマイクロRNAを調べればよいのかの情報が世界中どこでも得られるようになっています。

 実用化には機器の整備などのハードルもあり、「当初想定したスピードでは進んでいませんが、現在、膵臓がんについて実用化を進めている会社があります。また、シンガポールでもいくつかのがんについて実用化を進めていると聞いています」(落谷先生)。

 落谷先生は、別のアプローチでの研究も進めています。マイクロRNAが入っているカプセル、エクソソームの表面のタンパク質にもがんごとに特徴があるので、これを調べてがんを見つける、という方法です。「この方法によるがん検査の実用化も進めたいと考えています。多くのがんが早期発見できるようになることを願って研究を続けています」(落谷先生)。

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