医学・医療最前線

がんだけをピンポイントに壊す「第5の治療法」光免疫療法
( 2022/09/30 )

 新たながんの治療法として注目されている「光免疫療法」。手術、化学療法、放射線療法、免疫療法に続く「第5の治療法」ともいわれています。がん細胞だけをピンポイントに攻撃できるうえ、がんに対する免疫を高める作用もあるのが特徴です。光免疫療法の仕組みや、実際の治療の流れなどについて、関西医科大学光免疫医学研究所 所長 小林久隆先生と、同大学附属病院光免疫療法センター 講師 藤澤琢郎先生に伺いました。

ポイント

  • ・ 光免疫療法は、がん細胞だけに付着する薬剤を投与した後に光を照射することで、薬剤が光に反応してがん細胞を破壊する治療法。さらに、がんに対する免疫を活性化させる作用もある。
  • ・ 実際の治療では、薬剤を点滴してから20~28時間後に全身麻酔下で光を照射する。光免疫療法で使用する薬剤は光に反応するため、治療後4週間は直射日光を避ける必要がある。
  • ・ 現在、光免疫療法の対象となっているのは、「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」のみだが、今後は頭頸部以外のがんにも対象を拡大することが期待される。

がんを光で壊し、免疫を活性化させる治療法

 光免疫療法とは、がん細胞のみに付着する薬剤を投与した後に光(近赤外線)を照射することで、薬剤が光に反応してがん細胞だけを破壊する治療法です。2020年9月に世界で初めて日本で承認され、2021年1月に保険適用となりました。

 光免疫療法で使用する薬剤は、がん細胞の表面に付着するタンパク質に、光に反応する色素を付けたものです。点滴で投与すると、薬剤が徐々にがん細胞に集まっていき、約1日で、がん細胞に薬剤が十分に付着した状態になります。薬剤が付着したところに光を当てると、色素が反応してがん細胞を破壊します。薬剤自体はがん細胞にダメージを与えず、光も人体には無害です。両方が反応することで、がん細胞を壊すことができます。

 これまで、がんの治療法としては、手術、化学療法(抗がん剤投与)、放射線療法、免疫療法(がん細胞を直接壊すのではなく、免疫を活性化させることでがんを攻撃する方法)が行われてきました。光免疫療法は、これらの治療法に続く「第5の治療法」と呼ばれ、今までの治療法のデメリットを解消する特徴を持っています。

 従来の治療法によるデメリットは、次の通りです。

  • ・ 化学療法や放射線療法は、がん細胞だけでなく正常な細胞まで攻撃してしまいます。本来はがんを攻撃する役割を持っている免疫細胞も、これらの治療によってダメージを受けるため、免疫機能が落ちてしまうことがあります。
  • ・ 手術は、がんが転移している可能性がある場合、免疫を担う器官であるリンパ節を切除することがあり、免疫機能の低下につながってしまいます。
関西医科大学光免疫医学研究所 所長 小林久隆先生

関西医科大学光免疫医学研究所 所長 小林久隆先生

 光免疫療法は、がん細胞だけをピンポイントで壊すため、免疫細胞を含めた正常な細胞を傷つけません。さらに、光免疫療法によってがん細胞が破壊されると、壊れたがん細胞の中から、がんに特有の物質(がん抗原)が周囲にばらまかれます。この物質を周囲の免疫細胞が認識し、同じがん細胞に対する免疫が活性化されます。「この仕組みなら、光を当てた後にがん細胞が残ってしまったとしても、患者さんの体に元々備わっている免疫機能で、がん細胞をさらに攻撃することができます。光免疫療法は、がんを直接壊すことと、免疫を活性化することの2つを、一度の治療で両立できる治療法なのです」(小林先生)。

 光免疫療法だけで全てのがんを治せるわけではなく、現段階では治療の対象になるがんも限られていますが、がん治療法の新たな選択肢として期待が高まっています。


光免疫療法の仕組み 光免疫療法の仕組み

治療後は直射日光を避けることが大切

 現在、光免疫療法の対象となっているのは、「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん(口腔がん、舌がん、咽頭がん、喉頭がんなど)」です。化学療法や放射線療法など、従来のがん治療が受けられる場合はそちらが優先的に行われ、効果がなかった場合に光免疫療法の適応となります。薬の成分に対するアレルギーがある人や、がんが頸動脈まで広がっている人は、光免疫療法を受けることができません。

 光免疫療法の流れは以下の通りです。

1日目

カーテンやブラインドを閉めた直射日光の入らない部屋で、2時間以上かけて光免疫療法用の薬剤を点滴する。

2日目

点滴から20~28時間後に、全身麻酔下で光を照射する。皮膚の表面に近い場所には、光ファイバーを使って直接光を当てる。体の中の深いところにがんがある場合には、がんに針を刺し、そこに光ファイバーを挿入して光を当てる。

3日目以降

光の照射後は1週間程度入院する。入院中も、直射日光を遮った部屋で過ごす。

 治療効果が不十分だった場合は、4週間以上の間隔をあけて、最大4回まで光免疫療法を繰り返し行うことができます。

 光免疫療法で使用する薬剤は光に反応するため、治療を受けた後に強い光に当たると、皮膚が赤くなったり、皮膚や目に痛みが生じたりすること(光線過敏症)があります。退院後も、治療を受けてから4週間は、直射日光を避けて過ごすようにします。外出が必要な場合は、皮膚や目に強い光が当たらないように、長袖、長ズボン、サングラス、帽子、手袋などを着用します。

関西医科大学附属病院光免疫療法センター 講師 藤澤琢郎先生

関西医科大学附属病院光免疫療法センター 講師 藤澤琢郎先生

 光線過敏症以外の副作用として、がんがあった部分の痛みや出血、のどや舌のむくみなどが生じる場合があります。「これらの副作用は、通常数日でおさまる短期的なもので、痛み止めやステロイド薬などを使って対処します。光免疫療法は、一時的な副作用はあるものの、手術などと比べて、食べる、話すといった頭頸部の重要な機能に影響が出にくく、長期的に生活の質を保持しやすいというメリットがあると感じます」(藤澤先生)。

 なお、今回紹介している光免疫療法は「頭頸部アルミノックス治療」とも呼ばれ、現段階でこの治療を受けられる医療機関は全国で62施設(2022年4月15日現在)です。施設要件を満たした医療機関で、手術に精通した有資格の医師のみが行える治療となっています。この62施設以外の医療機関でも「光免疫療法」と呼ばれる治療法が提供されている例がありますが、今回紹介している光免疫療法(頭頸部アルミノックス治療)とは異なるもので、保険適用されていないことに注意が必要です。


他のがんへの適用にも期待

 光免疫療法は、今のところ頭頸部がんにしか保険適用されていませんが、将来的には他のがんに対しても使えるようになることが期待されています。

 光を当てるための機器の改良も望まれます。体の深部にがんがあり、別の器官の陰になっている場合など、現在の装置ではがんに光を当てにくいケースもあります。光が十分に当てられないと、十分な治療効果が得られないため、がんの位置に関わらず光を当てられる機器の開発が期待されます。

 光免疫療法はまだ新しい治療法ですが、これまで治療が難しかったがん患者さんにとって、大きな希望となる可能性があります。今後さらに研究が進むことが期待されています。

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