医学・医療最前線

椎間板を焼いてヘルニアを引っ込める「経皮的レーザー椎間板減圧術」 ( 2010/01/27 )

※この技術は、2012年から先進医療をはずれ、自由診療となりました。

 かつては大きなリスクを覚悟で行った「椎間板(ついかんばん)ヘルニア」の手術。しかし医学の進歩と共に、リスクと患者へのダメージがより小さい治療法が開発されてきました。その代表とも言える「経皮的レーザー椎間板減圧術」は、レーザー光線を使って椎間板を焼く治療法です。

はみ出した「椎間板」が神経を圧迫

 まず対象となる椎間板ヘルニアについて説明しましょう。人間の“体の軸”である背骨は、24個の骨が積み木のように重なっています。そして骨と骨の間には、「椎間板」と呼ばれる組織があり、クッションの役目を果たしています。このクッションによって、背骨は加わる衝撃を和らげたり、曲げ・伸ばしという一定の動きをスムーズにすることができます。椎間板は、卵形状の塊である「髄核(ずいかく)」と、それを取り囲む「線維輪(せんいりん)」からできています。(図参照)

 椎間板ヘルニアは、この椎間板が老化や激しい運動、過度の加重などによって線維輪が断裂して、髄核と線維輪が通常収まっている位置から外へはみ出し、神経を圧迫して、腰痛や足の痛みやしびれを引き起こす病気です。ほとんどは、腰椎(腰の位置にある背骨)の椎間板で起こります。

 患者の自覚症状は様々で、痛みやしびれ以外にも「腰が曲げにくい」「腰や背中がひどく凝る」「尿や便が出にくくなる」などがあります。

 軽度の場合は「けん引療法」「温熱療法」「マッサージ」などの「理学療法」や「内服薬」「外用薬」「神経ブロック」などの「保存的療法」で症状の緩和を図ります。重症の場合、従来は全身麻酔をして背中を数cm切開し、腰椎の一部を削って、神経を圧迫している部分の髄核を摘出する手術が主流でした。近年では、内視鏡や顕微鏡を使って髄核の一部を摘出する手術も普及しています。

背骨と椎間板
背骨と椎間板

椎間板の「髄核」を焼いて、はみ出し部分を引っ込める

 経皮的レーザー椎間板減圧術は、皮膚切開や椎間板の摘出を行わない非侵襲的治療法です。使うレーザーは、この治療法に最適とされる「ヤグレーザー」です。

 手術は局所麻酔で行われ、まず体の外から、レーザーファイバーを通すための中空の針(直径0.4mm程度)を椎間板中央部にある髄核に挿入します。(図参照)

 この針にレーザーファイバーを通した後、数〜10分程度レーザーを照射し、熱によって髄核の一部を焼いて炭化させたり、蒸発させたりします。こうすることで髄核の容積が減って圧力が下がり、その周りの繊維輪のはみ出しが引っ込んで、神経への圧迫がなくなります。手術のポイントは、椎間板のはみ出した形状などから、髄核のどの部分をどの程度の温度で焼けばいいのかという判断で、医師の経験と技術が必要となります。

 先進医療としての「経皮的レーザー椎間板減圧術」の承認施設である岡山旭東病院(岡山市)では、原則として1日の入院でこの治療法を行っています。費用は1椎間板の場合20万円で、2椎間板以上の治療をする場合は、追加1椎間板当たり7万円です。手術を担当する土井基之副院長は「遠方からの患者もいるので大事を取って1泊だけ入院してもらっていますが、患者へのダメージが小さいので、入院なしでこの治療を行う施設もあるようです」と話します。

「経皮的レーザー椎間板減圧術」の仕組み
「経皮的レーザー椎間板減圧術」の仕組み

ヘルニアを治療しても腰痛が治らないケースも

 この治療法は1980年代にオーストラリアで開発され、日本では90年代から行われるようになりました。長所は「局所麻酔でできる」「細い針を使うので出血がほとんどない」「大きな傷が残らない」「入院期間が短い」「退院後すぐに日常生活が可能」「副作用がほとんどない」などです。

 しかしすべての椎間板ヘルニアが、この治療法の適応になるわけではありません。この病気は、椎間板のはみ出している程度によってⅠ、Ⅱ、Ⅲ度と分類されますが、最もひどくはみ出しているⅢ度の症状には適応されません。この場合、髄核を焼いても、はみ出した部分が元に戻らないことが多いからです。

 また、この治療を受けても数〜10%程度の患者は症状が改善されません。これについて土井副院長は「理論的には、椎間板ヘルニアによる痛みや足のしびれは改善されているはずです。しかし腰痛の原因はヘルニアだけではなく、その発生メカニズムも複雑で不明な点が多い。この治療法で腰痛が改善されない患者は、ヘルニア以外の要因も考えるべきでしょう」と話します。

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