医学・医療最前線

「自己腫瘍・組織を用いた活性化自己リンパ球移入療法」 ( 2009/12/29 )

※この技術は、2016年から先進医療をはずれ、自由診療となりました。
(「自己腫瘍・組織および樹状細胞を用いた活性化自己リンパ球移入療法」は先進医療)

 「自己腫瘍・組織を用いた活性化自己リンパ球移入療法」は、がんの治療法のなかでも「免疫療法」(あるいは「免疫細胞療法」)と呼ばれる治療法の一種です。がんの三大治療法とされる「外科療法」「放射線療法」「化学療法」と比べて歴史が浅いものですが、今後の期待が大きい治療法でもあります。「自己腫瘍・組織を用いた活性化自己リンパ球移入療法」を理解するために、まず「免疫」そして「がんと免疫」について説明しましょう。

体内で無数に発生するがん細胞を免疫システムが排除

 本サイトのコンテンツ「キーワード」にあるように、「免疫」とは体のなかで、「細菌」や「ウイルス」などの病原体や「がん細胞」などを見つけ、それらを攻撃して死滅させ、体が病気になることを防ぐシステムのことで、「リンパ球」と呼ばれる白血球が重要な役割を果たしています。

 システムを大きく分けると、異物全般に対してまず反応する「自然免疫」と、特定の病原体などに個別の反応を示し、その病原体の型を記憶しておいて、次回の感染時などに即対応する「獲得免疫(適応免疫)」の2つに分かれます。

 通常、人の体では、毎日何千ものがん細胞が発生すると言われていますが、簡単にはがんにならないのは、この免疫のシステムが、見つけたがん細胞を次々と排除しているからです。しかし加齢、ストレス、病気など、様々な原因によって免疫力が落ちたり、免疫に対するがんの抵抗力が強大になったりしてこの均衡が崩れ、免疫システムががん細胞の増殖をコントロールできなくなると、がんが発症すると考えられます。

免疫療法は患者自身の免疫能力を活用する治療法

 「外科療法」「放射線療法」「化学療法」の3つは、大きくなったがん細胞に対して、それぞれ「外科手術」「放射線」「抗がん剤」という外部の“武器”を使って攻撃する治療法です。一方免疫療法は、そもそも体が備えている免疫システムという内部の“武器”を様々な手法で「活性化」、つまり強化することによって、がんを退治する治療法です。

 免疫療法は、免疫システムという“武器”をどのように活性化するかによっていくつかの治療法に分かれます。先進医療としては、ここで取り上げる「自己腫瘍・組織を用いた活性化自己リンパ球移入療法」のほかにも、「活性化Tリンパ球移入療法」「自己腫瘍・組織および樹状細胞を用いた活性化自己リンパ球移入療法」「樹状細胞および腫瘍抗原ペプチドを用いたがんワクチン療法」があります。

患者のリンパ球をがん細胞とサイトカインで活性化

 それでは「自己腫瘍・組織を用いた活性化自己リンパ球移入療法」とはどんな治療法なのでしょうか? これは文字通り「患者自身のがん組織を使って、体外で患者自身のリンパ球を活性化させ、それを再び患者の体に戻す」という治療法です。(図参照)

 この治療法の“主役”は「キラーT細胞」、あるいは「腫瘍細胞障害性Tリンパ球」と呼ばれるリンパ球で、これはがん細胞を見つけ出して殺すという性質を持っています。キラーT細胞を含むリンパ球を、患者のがん組織に浸潤(侵入)している部分や血液中から抽出し、手術などの際に摘出した患者のがん組織、そして「サイトカイン」と呼ばれるリンパ球を刺激する特殊なタンパク質に混ぜ合わせます。こうすることで、このリンパ球は攻撃すべきがんの特徴をしっかり教え込まれます。

 こうして1~2週間、活性化・増殖させた後に、リンパ球は患者の体に戻されます。患者のがんの特徴を教え込まれたリンパ球は、いわば“訓練を受けた兵士”のようなもので、能力を最大限発揮してがんを退治することが期待されます。

 この治療法の先進医療としての適応症、つまりどういうケースで先進医療として認められるかの条件として「がん性の胸水、腹水または進行がんに係わるものに限る」とあります。これはがんによって胸腔や腹腔に大量の液体がたまるなど、進行したがんでのみ認められる」ということです。

「自己腫瘍・組織を用いた活性化自己リンパ球移入療法」の模式図
「自己腫瘍・組織を用いた活性化自己リンパ球移入療法」の模式図

副作用は軽い発熱程度

 「自己腫瘍・組織を用いた活性化自己リンパ球移入療法」の長所は何でしょうか? この治療法を含む免疫療法は全体として、外科療法、放射線療法、化学療法に比べ副作用が少なく、非侵襲的であることが最大の長所です。副作用は治療中や治療直後に、人によって軽い発熱がある程度です。

 そして体へのダメージも小さく、この治療のために入院が必要となることはほとんどなく、患者はクオリティ・オブ・ライフ(QOL=生活の質)を保ちながら治療を続けることができます。外科療法、放射線療法、化学療法と併用することもでき、それぞれの治療効果を底上げすることも期待できます。

 さらにこの治療法は、血液のがんなどを除いてほとんどのがんを対象とすることができます。また、免疫力という体の基礎的能力を上げる治療法なので、がんが見かけ上治癒した後も、再発を予防する効果があるとされていますが、今後、効果の科学的検証が必要です。先進医療としての同治療法実施施設として承認されている東京医科歯科大学付属病院の森尾友宏・細胞治療センター長は「再発予防こそが、免疫療法の最も期待できる部分と考えています」と話します。

 半面、外科療法、放射線療法、化学療法と比べ、免疫療法単独では治療効果が小さいのが欠点です。森尾センター長も「メラノーマ(悪性黒色腫=皮膚がんの一種)や膠芽腫(脳腫瘍の一種)など一部のがんでは、免疫療法だけでもある程度の効果があることが報告されていますが、基本的には現段階では三大治療法を補完する治療法と考えるべき」と言います。このため、これらの治療法と併用することが多くなりますが、承認された施設で先進医療として行わなければ、通常の混合診療(第1回『単に「進んだ医療」ではない「先進医療」』参照)となり、一連の治療として行われるものの費用も、すべてが自己負担となってしまいます。

 「自己腫瘍・組織を用いた活性化自己リンパ球移入療法」が先進医療として行われる場合、患者の自己負担となる先進技術部分の費用は13~15万円程度です。

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