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信州大学医学部附属病院(1)

血管新生療法とは
手足の切断から患者を救う再生医療

( 2010/05/31 )

※この技術は、2020 年に先進医療から削除されました。

 現在、国内では糖尿病や脂質異常などが進み、手足の先に血液が行き渡らなくなり(閉塞性動脈硬化症)、手足を切断せざるをえない患者が毎年約3000人存在すると言われています。この治療として、既に高い治療効果を上げている先進医療があります。それは、自分の骨髄液から採取した細胞を血流が悪くなった場所に移植し、血管を再生させる血管新生療法(骨髄細胞移植による血管新生療法)です。

池田宇一教授

「医師ですらこの血管新生療法を知らないことが多いのです。この機会に一般の人も含めて知ってほしい」と話す池田宇一教授

信州大学医学部附属病院

遠方からも血管新生療法の治療に来院する信州大学医学部附属病院

 「再生医療というと、まだまだ研究段階のもので、未来の治療法と思っている方が多いとは思います」と語るのは、信州大学医学部附属病院循環器科の池田宇一教授。「しかし、既に、国内で数百人が治療を受け、高い治療効果が確認されている再生医療があることを是非とも知って欲しい」と強調します。

 池田教授らが行っている再生医療は、閉塞性動脈硬化症やバージャー病などを対象としたもの。手足の切断を勧告された重症患者において、閉塞性動脈硬化症では約7割、バージャー病では約9割が、この血管新生療法により手足の切断を回避できているということです。

 閉塞性動脈硬化症は動脈硬化が原因で発症する病気で、糖尿病患者や人工透析を受けている患者に多く合併することが知られています。動脈硬化が原因で発症し、脳梗塞、心筋梗塞と並んで三大血管病とも呼ばれています。

60歳以上は約4分の1が閉塞性動脈硬化症

 米国では、閉塞性動脈硬化症の患者は1050万人存在すると言われ、脳梗塞や心筋梗塞の患者数よりも圧倒的に多いのです。一方、日本では統計がないため、閉塞性動脈硬化症の患者数は不明ですが、高齢化と食生活の欧米化とともに、患者数が増加している模様です。

患者自身の骨髄液を用いて末梢の血管を再生

 閉塞性動脈硬化症の症状は、軽症では手足のしびれや冷感です。症状が悪化すると、歩くと痛い、安静にしていても痛いなど、クオリティ・オブ・ライフ(QOL=生活の質)が悪化し、重症の患者では末端の血管が詰まり、血流が途絶え、その先の組織が死んでしまいます。この治療は、軽症患者に対しては運動療法や薬物療法が選択されますが、薬物療法で効果が得られない場合には、血管のバイパス術やステント留置などの血管再建術が標準的な治療法とされています。

 しかし、このような標準的な治療で効果が得られない重症の閉塞性動脈硬化症で、手足の切断が必要になる患者が、日本国内だけで毎年3000人程度、生じているとの推計があります。脳梗塞や心筋梗塞のように生死に関わる発作が突然、生じる病気ではありませんが、患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL=生活の質)を大きく損なう病気なのです。

 一方、バージャー病は喫煙との関連が指摘されているものの、原因不明の疾患です。末梢の血管が詰まり、閉塞性動脈硬化症と同様、重症化すると手足の先端の組織が死んでしまい、切断が必要になります。閉塞性動脈硬化症の発症率が高齢になるほど増加するのに対して、バージャー病は20代や30代などの若い年代でも発症するという特徴があります。

 池田教授らが行っている再生医療は、患者本人の骨髄液中に存在する血管の基となる細胞を分離し、それを血流が悪くなった場所に注射して血管を再生するというものです。この治療法は、2003年から高度先進医療(現在の先進医療)として認められました。対象となる患者は、薬物療法や血管再建術などの従来の治療法が効かず、末端の組織が死んでしまった(潰瘍や壊疽)閉塞性動脈硬化症、もしくはバージャー病です。すなわち、そのままでは手足を切断するしかない患者を対象としています。

閉塞性動脈硬化症の重症度分類

 標準治療が効かない患者を対象としているにもかかわらず、この血管新生療法による治癒率は高く、「若い人ほど治療効果は高い」(池田教授)といいます。その理由は、若い患者の場合、ある特定の場所の血管が詰まっており、その周辺の血管は比較的正常に近いこと、また、骨髄液から分離した血管の基となる細胞が「比較的、元気」(池田教授)であるためだそうです。

治療費用は20万円強、全国19の医療機関が実施中

 この血管新生療法による治療そのものは保険適応となっておらず、全額自費診療となりますが、先進医療の対象となっているため、検査や入院の費用は保険が効きます。信州大学医学部附属病院の場合、「治療費用の自己負担分は20万円台」(池田教授)とのこと。また、この治療法は、信州大学医学部附属病院以外にも全国19の医療機関が実施しています。

 池田教授は、「遠方から問い合わせを受けることも多々あるが、患者さんの近所に同じ治療を行っている医療機関がある場合には、その医療機関を紹介している」といいます。とはいえ、「来週は名古屋から来る患者さんを治療する予定」と、遠方からの患者も、希望に応じて受け入れています。ちなみに、この名古屋の患者さんは、主治医がこの治療法を知らなかったため、自分自身でインターネットを使ってこの治療法の存在を知り、信州大学医学部附属病院に問い合わせて来たそうです。

 「実は医師ですら、この治療法を知らないことが多いのです」と池田教授。昨今、医療技術の進歩はめざましく、専門外の治療の進歩に追いついている医師は少ないのが現実。そのため、自分自身や家族、友人の体を守るためにも、新しい医療技術を知っておくことは重要といえそうです。

 現在、池田教授らは、閉塞性動脈硬化症やバージャー病に加えて、新たな疾患として膠原病の強皮症(皮膚が硬化する原因不明の疾患)を先進医療の対象に加えるべく奮闘しています。これまで国内9施設において、強皮症を対象にした血管新生療法の臨床研究を行い、約9割の患者に有効であることを確認しました。厚生労働省に承認されれば、骨髄細胞の移植による血管新生療法の対象が新たに1つ増えることになります。

 次回は、血管新生療法の実際を紹介します。

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