遺伝とは、親から子、子から孫へと、様々な生物学的情報を伝えることで、その情報が“書き込まれた”分子が遺伝子(DNA=デオキシリボ核酸)です。「遺伝子診断」は、この遺伝子の異常や特定遺伝子の有無を調べて、病気や将来病気になる可能性を診断する方法です。ごく少量のDNAを増殖させて調べる「PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)」が開発されてからは、少量の血液で診断できるようになりました。
遺伝子の異常で起こる病気(遺伝病・遺伝子疾患)は4000種類以上あると言われ、「血友病」「筋ジストロフィー」「ハンチントン病」などが代表的なものです。
遺伝子診断によって、血縁関係にある人の病気発症リスクが明らかになったり、病気発症リスクの高い胎児が中絶されるなどのケースがあることから、実施には十分な倫理的配慮が必要とされています。
遺伝子解析ツールとして開発されたDNAチップ「3D-Gene」。将来、遺伝子診断への応用が期待されている。(画像提供:東レ)
医薬品や医療機器が国内で製造販売されるためには、薬事法に基づき、厚生労働省による審査を経て承認されなければなりません。薬事法は、医薬品・医療機器、化粧品などの安全性や有効性を確保するための法律です。
承認申請のために行われる臨床試験のことを「治験」と言います。治験は健常者を対象として安全性を検討するものから、実際の患者を対象として有効性を証明するものまで、いくつかのレベルに分かれます。
医薬品・医療機器が承認されることと、その医薬品・医療機器による医療行為に公的な医療保険が適用されるかどうかは別のことです。保険を適用するかどうかは、厚労相の諮問機関「中央社会保険医療協議会(中医協)」の答申に基づいて決められます。
また先進医療など一部のケースでは、薬事法で未承認の医薬品・医療機器でも、医師の指導の下、治療行為に使われることがあります。
1990年ごろ、アメリカから入ってきた医療に対する考え方で、日本語では「説明と同意」と訳されます。
医師が患者に対して、病気や治療の内容、効果、副作用、危険性、費用、別の選択肢などについて十分に、分かりやすく説明し、その上で患者が自分の意志に基づき、受ける治療に同意することです。
かつて日本では、「病気のことはすべて医師に任せておけばいい」という考え方が強く、患者は医師の提示した治療法に対して、十分な説明を求めたり、違う治療法を望んだりすることをしにくい風潮がありました。「インフォームド・コンセント」の考え方は、こうした医師と患者の関係を改め、理想的なコミュニケーションを築くためのものです。
インフォームド・コンセントの浸透によって、患者自身が治療後の「クオリティ・オブ・ライフ(QOL、生活の質)」を重視し、治癒率が下がる可能性があっても「温存療法」を選択するケースが増えている、という傾向なども見られます。
(国立国語研究所「『病院の言葉』委員会」が2008年、インフォームド・コンセントの促進などのためにまとめたもの)
がんなどが発症した臓器を、外科的手術によってすべて切除してしまうのではなくて、放射線や薬物による治療で、その臓器の一部、あるいは全部を残す治療法。最も一般的で、しかも一定の効果を上げているのが、乳がんの治療で乳房を残す「乳房温存療法」です。
かつて乳がんの手術といえば、乳房だけでなくそれを支える胸の筋肉までも切除する「ハルステッド手術」が当たり前でしたが、現在ではそれは、「がんのステージ」が進んだ一部の「進行がん」でしか行われていません。
どの部分をどの程度温存するかは様々で、乳房をまったく切除せずに放射線照射のみを行う方法から、乳房のかなりの部分を切除する方法まであります。
乳房温存療法が選択できるかどうかは、がんの大きさや発症部位などにもより、すべての乳がんで、患者が望むタイプの温存療法ができるとは限りません。また再発のリスクも残る可能性があり、実施には十分な「インフォームド・コンセント」が必要とされます。
(日本乳癌学会「全国乳がん患者登録調査2006年次症例調査報告」より)
「化学療法」は、内服薬や注射など、薬を使って病原体やがん細胞などを攻撃する治療法です。「感染症」「がん」「自己免疫疾患」などの治療に使われますが、がん治療の場合、「抗がん剤」を使う治療法を化学療法と言っています。
がんの場合、いくつかの種類のがん細胞が混在していることが多く、また、がん細胞が変化して薬が効かなくなることもあるので、数種類の抗がん剤を併用して使う場合がほとんどです。どのような種類の抗がん剤をどのくらいの期間使うのかは、がんの種類や進行の度合いによって異なり、医師は患者を診ながら抗がん剤の組み合わせと投薬量を決めていきます。
「X線(レントゲン)画像」による診断が主流だった時代に比べ、現在の画像診断技術は格段の進歩を遂げています。
「CT(コンピュータ断層撮影)」は、複数枚のX線画像を撮影することによって、体をスライス状に観察して病巣を正確に診断したり、撮影した画像データをコンピュータ処理して立体的に再構成したりします。
「MRI(磁気共鳴画像)」は、体に磁気を当てて画像を撮影する装置です。体の細胞に含まれている水素の原子核は磁気に共鳴し、微弱な電波を発生します。MRIはその電波を受信することで画像を作成します。MRIで使われる磁気はX線のような放射線ではないので、被爆のリスクはありません。また骨が写らないという特徴もあり、CTより臓器の状態が鮮明に分かります。
「PET(陽電子放射断層撮影)」はがんの検査法の1つです。がん細胞が正常細胞の3~8倍ものブドウ糖を取り込むという特性を利用して、ブドウ糖に似せた薬剤を体内に注射し、薬剤ががん細胞に集まるところを画像化します。がんを確実に診断するために、これらの診断を複数組み合わせて行う場合もあります。
CT画像(左上下)、PET画像(中央上下)とこれらの合成画像(右上下)。(画像提供:厚地記念クリニックPET画像診断センター)
「活性化」とは、細胞などが何らかの影響を受けることで、活発な性質になることです。がん細胞が増殖するのも活性化の一種です。
正常な細胞をがん細胞に変えたり、がん細胞の増殖をもたらす原因となる物質を「発がん性物質」と言います。発がんのメカニズムは、すべてが解明されたわけではありませんが、発がん性物質には、正常な細胞内に入り込んで遺伝子(DNA)を傷つけ、遺伝子の突然変異をもたらし、がん化させるものもあります。
「ウイルス」「活性酸素」「放射線」「紫外線」「たばこ」などが、身近に存在する発がん性物質として知られています。
がんの状態を表す国際的な分類に「TNM分類」があります。これは「がんの大きさがどれくらいか」「周辺のリンパ節にどれくらい移転しているか」「遠隔臓器への転移はあるか」の3つの要素で判断するものです。
このTNM分類をもとに、がんの進行度と広がりの程度を表わすために作られたのが、「ステージ分類」です。進行の段階は「ステージⅠ~Ⅳ」で示されますが、ステージの分け方は、関連する学会によってがんの種類ごとに決められているので、ステージが同じでも、がんの種類が違っていれば、想定される治癒率などは同じではありません。
がん細胞が増殖して、最初にできた部分(原発巣)から体の他の部位にがんが広がることです。こうしてできたがんを「二次がん」「転移がん」といいます。
転移には、原発巣に接した臓器などに転移する「直接浸潤(ちょくせつしんじゅん)」、おなかや胸などの粘膜にできたがんが進行して、粘膜を突き破って腹腔や胸腔に転移する「播種(はんしゅ)」、原発巣から離れた場所に転移する「遠隔転移」があります。
遠隔転移には、がん細胞が血管を通って他の場所に癒着してそこに病巣をつくる「血行性転移」と、リンパ管を通って他の部位に癒着する「リンパ行性転移」があります。
検査などで原発巣が見過ごされ、転移した後、初めてがんが発見されるケースもあります。
「再生療法」とは、一度失うと自然には再生しない組織や臓器を再生させ、機能を回復させる治療法です。代表的なものは、歯周病によって失われた歯の骨の再生療法などです。
これに対し、心筋梗塞など、血管が狭くなったり詰まったりすることで発症する病気に、血流を増やしたり、痛みを軽くしたりするために、新しい血管をつくり出す治療法を「血管新生療法」と言います。
「再生療法」や「新生療法」では、患者自身の骨髄に含まれる「幹細胞」が使われるケースがあります。「幹細胞」の「様々な役割の細胞へと変化しやすい」という性質を利用して、目的とする臓器や機能をつくり出すのです。
「幹細胞」のなかでも、人間の胚(受精卵)から取り出した「ES細胞(胚性幹細胞)」や、人工的につくり出された「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」は、どのような細胞へも変化する可能性を持つため、将来の再生療法の切り札としての期待が大きく、実用化に向けた研究が続けられています。
「腫瘍」は、体の組織や細胞が、正常な新陳代謝の制御に反して、過剰に増殖することによってできる組織の塊(かたまり)のことで、「新生物」と呼ぶこともあります。遺伝子(DNA)の異常などによって発生しますが、そのメカニズムにはまだ不明な点もあります。腫瘍には良性のものと悪性のものがあり、悪性のものをいわゆる「がん(悪性腫瘍、悪性新生物)」といいます。
がん細胞は、制御できない増殖を続け、周りの正常な細胞に広がっていきます。また、血液などの流れに乗って体のあちらこちらに転移することもあります。増殖によって栄養分を奪い、宿主である患者の体を弱らせることになります。
医学的には、がんは「がん(癌)腫」と「肉腫」に大別され、がん腫は「胃がん」「大腸がん」など臓器の粘膜にできるもの、肉腫は「骨肉腫」「血管肉腫」など骨、筋肉、血管にできるものを指します。
「早期発見」「早期治療」は病気を治すために重要です。「スクリーニング」とは、そのために行う「ふるい分け」で、特定の病気について、多くの人に比較的簡単な検査を行い、病気の可能性のある人とそうでない人に選別することです。
スクリーニングの結果、「病気の可能性がある」と判定された人たちは、より精度の高い検査を受けて、その結果によっては治療を開始したり、様子を観察したりすることになります。
2008年4月から、「高齢者の医療の確保に関する法律」などにより、特にメタボリック(内臓脂肪)症候群に着目したスクリーニングのための健診が、40歳以上75歳未満の人を対象に始まりました。また、がんについては、積極的にスクリーニングを実施している自治体もあります。
一般的には、主に難病に対して、最新の医療技術を用いた、最先端の医療行為という意味で使われることがあります。
しかしこのサイトで取り上げている「先進医療」とは、こうした最先端の医療の中でも、実際の患者を対象に、ある程度治療実績が重ねられ、厚生労働省が治療法として承認した医療行為を指します。公的な医療保険を適用するべきかどうかを検討している段階にある医療行為でもあります。
2006年10月に健康保険法が改正されたとき、それまで「高度先進医療」「先進医療」に分けられていたものが統合されて、現在の「先進医療」に新しく区分されました。09年9月1日時点で、112種類の医療行為が承認されています。
先進医療は、一般的な医療と比べると新しい技術を使うコストが高く、その部分の費用は自己負担となり、公的な医療保険が適用されません。しかし通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院費など)については、保険適用となります。トータルの費用は、医療の種類や病院によって異なります。
外からは見ることができない体の内部を観察して、場合によっては治療(内視鏡手術)も行うための医療機器です。
一般的には、先端にレンズとCCDがついた細長くやわらかい管を体内に挿入し、CCDから電気信号により送られてくる体内の様子をビデオモニタに映し出して診断を行いますが、先端部から鉗子(かんし)を出して病変部を切除するなどの治療も行えます。
内視鏡の中でも、「腹腔」、つまり胃や腸に対して体の表面に開けた穴を通して使う管の硬い内視鏡を「腹腔鏡」と言います。「腹腔鏡」を使った手術は、皮膚切開をする開腹手術に比べ、患者の負担が少ない「非侵襲的手術」であることから、近年多く行われるようになりました。
また最近では、単独で小腸に送り込まれ、撮影映像を無線で体外に送る「カプセル内視鏡」も開発されました。
内視鏡システム(左)。無線で画像を送るカプセル型内視鏡(右)。(画像提供:オリンパス)
検査や治療が患者の体へ与えるダメージが、従来のものに比べて小さいこと。「非侵襲的治療」は、治療後の日常生活での障害も比較的小さいというメリットがあります。
例えば内視鏡を使ってがんと周辺部分だけを切除する胃がんの手術は、開腹して胃の大部分を切除する外科手術より非侵襲的です。同様に「粒子線がん治療」や、放射線照射による「乳房温存療法」なども非侵襲的とされます。
非侵襲的治療を選択する患者が増えている背景には、病気をただ単に治すだけでなく、治療後も人間らしい「クオリティ・オブ・ライフ(QOL、生活の質)」を確保したい、という考え方の広がりがあります。
また検査などでは、まず非侵襲的な検査を行い、そこで異常があった場合に、必要に応じて、細胞や組織を採取する「生検」などの「侵襲的」な検査を行うという流れが一般的です。
体のなかで、「細菌」や「ウイルス」などの病原体や「がん細胞」などを見つけ、それらを攻撃して死滅させ、体が病気になることを防ぐシステムのことです。
いくつもの段階を経て効果を発揮する複雑なシステムですが、大きく分けると、異物全般に対してまず反応する「自然免疫」と、特定の病原体などに個別の反応を示し、その病原体の型を記憶しておいて、次回の感染時に即対応する「獲得免疫(適応免疫)」の2つに分かれます。「獲得免疫」の中心的な役割を担うのは、白血球の一種「リンパ球」です。
免疫システム自体に異常をきたすことによって、様々な病気になることもあります。代表的な病気である「後天性免疫不全症候群(AIDS=エイズ)」は、ある種のウイルスの感染によって発症し、体の免疫機能が著しく低下することによって、様々な感染症を繰り返します。
逆に「自己免疫病」は、免疫システムが体の正常な組織を「異物」と誤認して、攻撃し、排除しようとする病気で、「関節リウマチ」などがあります。
「リンパ球」は白血球の一種で、主に体の「免疫機能」を担っています。Tリンパ球(T細胞)、Bリンパ球(B細胞)などがあります。
Tリンパ球は、表面にウイルスなどの異物を認識する機能があり、ウイルス、細菌、がん細胞などを認識すると、これらを直接攻撃して殺したり、他の免疫細胞に情報を伝えたりします。一方Bリンパ球は、異物を認識すると「抗体」と呼ばれるタンパク質を作って、これを異物に付着させて無毒化したりします。
Bリンパ球は、それぞれ個別に、対応するウイルスや細菌が決まっています。一度攻撃した異物の情報を記憶する性質があるので、次に同じ異物が侵入したときにはすばやく抗体を作ることができます。この性質を利用して、病原体を無毒化したり弱毒化したりして作った「ワクチン」をあらかじめ接種させておくのが「予防接種」です。
こうした免疫のメカニズムは、がん細胞も排除しようとしますが、がん細胞の増殖スピードが勝るなどの場合、がんが発症することになります。
「粒子線がん治療」は、「粒子線」という特殊な放射線を使い、がんの部分だけをピンポイントで破壊する治療法です。粒子線は、皮膚に近い体の浅い部分ではエネルギーを放出せずに、停止する直前にエネルギーを放出するよう照射をコントロールすることができ、これによって、体内の深いところにあるがんを破壊することができます。
粒子線治療に使われる粒子線は陽子線と重粒子線(炭素イオン線)の2種類があります。陽子線は水素原子をイオン化したもので、重粒子線は炭素原子をイオン化したものです。がんを破壊する能力は、陽子線がエックス線と同じくらい、重粒子線はエックス線の2~3倍です。
一般的には、陽子線治療は「前立腺がん」「肺がん」「肝がん」などに、重粒子線治療は「頭頚部腫瘍(とうけいぶしゅよう)」「骨・軟部腫瘍」などに向いているとされます。
粒子線がん治療に使われる照射装置。(兵庫県立粒子線医療センターで撮影)
レーザー発信器を使って、人工的に、特定の波長を持ったり、高いエネルギー状態などにした光(電磁波)のことで、「レーザー光」とも言います。目に見えるものだけに限らず、紫外線やX線のような短い波長や、赤外線のような長い波長のレーザーもあります。
自然光と違い、指向性に優れる、つまり拡散せずにまっすぐ進む、という特徴があるため、「レーザー治療」として、数多くの医療行為に使われます。
医療に使われる代表的なものの1つ「エキシマレーザー」は、特殊なガスを用いて作るレーザーで、短い波長を持ち、熱や衝撃波を発しないという特徴を生かし、必要な部分だけを切って、周辺を傷つけない「レーザーメス」などに使われます。
「ヤグレーザー」は逆に長い波長が特徴で、エネルギーの状態を保ったまま、深部にまで到達して、患部に作用させることができます。
ヤグレーザーを使った手術装置 「YC-1800」(左)と炭酸ガスレーザーを使った手術装置「COL-1015」(右)。(画像提供:ニデック)
感染症の予防に役立てるため、ウイルスや細菌などの病原体を材料に作る、一種の医薬品です。
「ワクチン」を予防的に接種しておくと、体にあらかじめ、そのウイルスや細菌に対する「免疫」のシステムを作っておくことができ、これによりそのウイルスや細菌が感染するのを防いだり、感染しても症状を軽くすることができます。
ワクチンを作る際には、その病原菌を処理して感染性をなくしたり、無毒化や弱毒化したりして、接種しても体に害がないようにします。
近年では遺伝子工学の手法を用いて、一部の感染症で、対象となる病原菌の遺伝子(DNA)を使ったワクチンづくりも行われており、その有効性が確認されています。