先進医療.net

脳卒中の今

未破裂脳動脈瘤(みはれつのうどうみゃくりゅう)の破裂リスクは大きさや場所などで異なる ( 2013/04/26 )

 脳ドックが普及してきていることなどから、症状のない未破裂脳動脈瘤が発見される機会が増えています。ただし未破裂脳動脈瘤は、そのすべてが破裂するわけではなく、大きさや形、瘤ができた場所などで異なることが明らかになっています。積極的な治療を行うかどうかは、その破裂リスクと、治療に伴う合併症リスクなどを踏まえて慎重に検討すべきです。また、禁煙や節酒など健康的な生活を維持することも血管の健康のために重要です。

 近年、症状のない未破裂脳動脈瘤を指摘される患者が増えています。脳動脈瘤が破裂すれば、致死率の高いクモ膜下出血が生じます。そのため、未破裂脳動脈瘤を頭に埋め込まれた"時限爆弾"と受け止める患者も少なくありません。

 しかし、未破裂脳動脈瘤は決してまれな疾患ではありません。「50歳成人における未破裂脳動脈瘤の有病率は3.2%。また、加齢とともに有病率が上昇することも知られています」と、日本医科大学脳神経外科学の森田明夫教授は説明します。MRAなどの画像検査により、脳の血管の状態を精度良く観察できるようになったため、未破裂脳動脈瘤が発見される機会が増えています。

松丸祐司氏

未破裂脳動脈瘤の診断と治療に取り組む日本医科大学脳神経外科学の森田明夫教授

動脈瘤は大きいほど、破裂するリスクは増加

 脳動脈瘤の治療を検討する上では、その自然経過(脳動脈瘤の状態の経過)を知ることが必要です。そのため、日本脳神経外科学会は2001年から、森田教授を研究の取りまとめ責任者として、未破裂脳動脈瘤の自然経過を調べるための観察研究(UCAS Japan)を行いました。

 この研究は、01年1月から04年4月の間で、未破裂脳動脈瘤と診断された成人5720人(動脈瘤は6697個)を対象に、その後の経過を調査したものです。結果は昨年、国際的に権威の高い医学雑誌New England Journal of Medicine誌に発表されました。

 経過観察中に111人がクモ膜下出血を発症し、全体での年間平均出血率は0.95%でした(図1)。加えて、出血のリスクは、瘤の大きさや場所、形状などに影響されることも明らかになりました。具体的には瘤が大きいほど破裂しやすく、最大径が3~4mmの小型動脈瘤に比べて、7~9mmでは3.4倍、10~24mmでは9倍、25mm以上で76倍と破裂率は高くなっていました(図2)。
図1●診断後の経過期間と破裂の割合
診断後の経過期間と破裂の割合

脳動脈瘤の年間平均出血率は0.95%と非常に低いが、瘤が大きいほど、出血するリスクが高くなる

図2●動脈瘤の大きさと破裂の割合
動脈瘤の大きさと破裂の割合

動脈瘤が大きいほど、出血するリスクは高くなる。特に、瘤の大きさが25mmを超えると、急激に出血するリスクが高くなり、1年後には35%近くまで破裂する危険度が高まることが判明

 7mm以下と比較的小型の動脈瘤であっても、前交通動脈や後交通動脈に生じた動脈瘤の相対的な破裂率が高くなっていました(脳内の動脈には、前・中・後大動脈があり、これらの血管を通して脳内に栄養が供給されます。左右の前大動脈をつなぐ血管は前交通動脈と呼ばれており、中大動脈と後大動脈をつなぐ血管は後交通動脈と呼ばれています)。森田教授は「前交通動脈や後交通動脈の血管は細い。動脈瘤が生じた血管が細ければ動脈瘤が小さくても破裂のリスクが高くなる可能性がある」と分析します。また、不整形な(形のいびつな)動脈瘤でも破裂率が高くなることも示されました。

 森田教授は「脳動脈瘤の中には、破裂しやすいもの、破裂しにくいものがある。脳ドックなどで未破裂脳動脈瘤を指摘されても慌てることなく、破裂リスクをよく確認し、治療に伴う合併症などのリスクと比較しながら、治療するかどうか、またどのような治療を受けるかを決めてほしい」と強調します。

治療法の検討では治療に伴うリスクも考慮して

 現在、未破裂脳動脈瘤の治療の選択肢には、開頭手術もしくは血管内治療があります。血管内治療とは、足の付け根の血管から挿入したカテーテルを動脈瘤があるところまで進め、カテーテルを介して動脈瘤の中に金属製のコイルを詰めるなどの治療を指します。近年、コイルが外れるのを防ぐため、ステント(筒状の金属)を組み合わせた治療法も普及してきています。

 体へのダメージが少ないことから血管内治療を受ける患者は急増しています。ただし森田教授は「開頭術に比べて体へのダメージが低いことは確かだが、治療に伴う合併症の国内発生率は開頭術とほぼ同じ」と言います。加えて、治療そのものの体への負荷は低くても、ステントによる血管内治療後は血管が詰まることで生じる合併症のリスクがあり、それを予防するために、一定期間抗血小板薬を服用する必要があります。「長期間抗血小板薬を服用することの負担も考慮すべきだろう」と森田教授は、長期的な影響まで総合的に考えてほしいと言います。

 また実際、未破裂脳動脈瘤に対する治療を受けているのは、未破裂脳動脈瘤を有する患者の半数以下にとどまります。「医師に早急な治療を進められても、セカンドオピニオンを聞いた上で、慎重に治療するかどうかを判断してほしい」と森田教授は言います。

 治療を受けず経過観察とした場合でも、年に一回程度は脳動脈瘤の検査を受け、瘤が大きくなっていないか確認すべきです。「5mm以下の脳動脈瘤でも、その内の2%程度は大きくなったり、形が変わる。瘤が変化するような場合は治療した方がいい場合も出てくる」(森田教授)ためです。

 そして、治療を受ける場合でも経過観察する場合でも、重要となるのが健康的な生活を維持することです。禁煙や節酒をし、高血圧や脂質異常症などを有する場合はそれらの治療を積極的に行うことが、血管へのストレスをなくす効果があります。また「コンタクトスポーツ(ラグビーやレスリングなど、相手との接触の多いスポーツ)以外であれば、運動も積極的に行ってほしい」と森田教授は話します。

 最後に森田教授は、「一生破裂せず、人生をともにできる脳動脈瘤もあることを知り、脳動脈瘤を指摘されても慌てず恐れずに対応してほしい」と締めくくりました。

▲ PAGE TOP