中山博文・川崎市立多摩病院脳神経外科医長に聞く
( 2018/08/31 )
中山博文(なかやま・ひろぶみ)
ポイント
超高齢化が進むにつれて脳卒中になる人が増えており、後遺症や要介護につながるケースも少なくありません。脳卒中の発症には、若い時からの生活習慣の積み重ねが大きく影響しています。脳卒中予防のために生活の中で気を付けられることなどについて、川崎市立多摩病院脳神経外科医長・中山博文先生に伺いました。
予防には、病気を未然に防ぐ「一次予防」と、一度病気になってから再発を防ぐ「二次予防」という考え方があります。一次予防に関しては、意識の高い人とそうでない人の差がかなりあります。脳卒中を引き起こす原因として生活習慣の積み重ねがあります。それが高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病につながり、これらの危険因子が脳卒中発作の誘因となります。しかし、生活習慣病は目立った症状が表れないことがほとんどで、脳卒中や心臓病など大きな発作を起こしてから初めて気付くことが多いものです。そのため、なかなか自身の問題として捉えられないというのが一次予防の難しさと言えます。公益社団法人日本脳卒中協会では、少しでも意識を持って予防に役立てていただけるように、「脳卒中予防十か条」を提案し、啓発に力を入れています。
血圧は脳卒中の最大の危険因子であり、心臓病など他の病気とも絡んでくる大変重要な要素だからです。血圧をコントロールすれば脳卒中のリスクも下げられます。目標値は原則140/90mmHg未満ですが、合併症がある場合は130/80 mmHg未満、一方で後期高齢者(※)は下げすぎるとあまり良くない面もありますので、150/90 mmHg未満を目標としても良いとされています(出典:「脳卒中治療ガイドライン」)。
※後期高齢者…75歳以上の高齢者を指す。
糖尿病でも血管に負担がかかり、特に目の網膜など微小な血管に障害が起こります(糖尿病網膜症)。また、糖尿病になれば腎臓にも影響が出て血液や血管の障害にもつながります。糖尿病の人は健康な人より脳梗塞の発症率が高いため、脳卒中の予防には血糖値の管理も重要です。
コレステロールについては、特に悪玉と言われるLDLコレステロールが高いと、心臓につながる大血管の障害を引き起こします。血管の壁にコレステロールがたまって動脈硬化を引き起こし、脳梗塞のリスクにつながります。
血圧、血糖、コレステロールは相互に関連しているため、全体的に捉えるべきです。若いうちからこれらの値が高い状態が続けば、血管障害の火種が体の中で蓄積していくことになります。どれか一つの値が高ければ、それを適正な値に是正することも大切ですが、例えばコレステロール値だけ下げても血圧が高ければ十分な予防効果が出ませんので、これらを網羅的に管理することで、予防効果が得られると考える方が良いでしょう。
まず、禁煙の重要性は言うまでもありません。「長年タバコを吸っているから今さらやめても変わらない」という人がいますが、そんなことはありません。長年吸っていたとしても、やめた分だけ予防効果が期待できますし、万一脳卒中になった場合の重症度を下げられる可能性もあります。諦めずに今からでも禁煙してください。
アルコールは適量を飲む方がコレステロールを下げるなどの良い効果が得られると言われています。1日にアルコール量20g(日本酒なら約1合)程度の適正飲酒がお勧めです。
塩分の摂り過ぎは高血圧につながりますので、塩分控えめを心掛けてください。日本高血圧学会の1日の推奨量は6g未満、厚生労働省の基準では1日の目標量が男性8g、女性7gです。また、脂肪はコレステロール値、糖分は血糖値と関係しています。それぞれ摂り過ぎに注意が必要ですが、「これを食べてはダメ」ということではなく、食生活全体でバランスを考えていただきたいと思います。他には、脱水症状を起こすと血液もドロドロになって血流に淀みができやすく、脳卒中につながるリスクも高まりますので、特に夏の暑い時期などは水分を十分に摂取するよう気を付けましょう。
※厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)『日本人の食事摂取基準』策定検討会報告書」では、1日の食塩目標量が男性7.5g未満、女性6.5g未満とされています。
運動も、極端なことをする必要はありませんが、継続することが大切です。1日30分程度のウオーキングなど有酸素運動が効果的です。そして、活動と休息のバランスが取れた生活リズムを維持するよう工夫してください。
過剰な食事、運動不足、代謝の悪さなどのリスクが体重になって表れますので、太り過ぎ(肥満)も間接的なリスクの一つとなります。BMI(体格指数=体重kg÷(身長m)2)で標準適正(BMI18.5から25未満)を目指しましょう。
さらに、疲労やストレスも体の調節機能のバランスを崩し、健康に悪影響を及ぼしますから、夜はできる限り決まった時間に寝て、十分な睡眠できちんと疲労を回復させ、朝起きて活動するというリズムを大切にしましょう。
生活習慣病の低年齢化の影響で、脳卒中も低年齢化が進み、30代や40代の人が脳卒中になる「若年性脳梗塞」が増えています。タバコを吸う、お酒をよく飲むという習慣や生活習慣病は大きなリスクです。また遺伝的な傾向もありますので家族で脳卒中を起こした人がいる場合には、脳ドックを受けることをお勧めします。
日本脳ドック学会に加盟している病院、もしくは脳卒中予防に特化した脳ドックを選ぶと良いでしょう。日本脳ドック学会が定めている検査項目に沿っているか、神経内科医や脳神経外科医などの専門医がいるかなどを目安にしてください。脳ドックでは、MRI(磁気共鳴画像装置)で撮った画像や頸部に超音波を当てる検査で、血管の詰まりや動脈硬化の程度を調べます。血圧や血液の検査も行い、発症リスクを高める高血圧や糖尿病などがあれば、生活習慣の改善指導が行われることもあります。
報告書を受診者に送付するだけの病院もありますが、日本脳ドック学会の認定施設では、原則として医師が面談で報告書の説明をしています。必ず結果について担当医からきちんと説明を受けることが重要です。
これをやれば100%確実に予防できるという方法はありません。ただ、予防している人とそうでない人では明らかな差が出てくるということが科学的に示され、脳卒中予防十か条の提案の根拠となっています。日々の生活の中でできることは確かにあり、無駄ではありません。ぜひ意識を持って脳卒中を予防していきましょう。