医療ライター
渡辺千鶴
( 2010/08/30 )
自営業のAさん(47歳)は、大腸がんの手術後、再発を予防するため外来で抗がん剤治療を行うことになりました。2種類の抗がん剤を1日3回、4週間服用し、その後1週間休薬するという治療計画のもと5コース(25週間)を実施し、1カ月の抗がん剤の治療費が約22万円、5コースで総額約110万円かかりました。
高額療養費の対象となるため、一般所得者であるAさんの毎月の自己負担金額は約8万4000円になりますが、高額療養費を申請し、還付金が払い戻されるまでには通常3〜4カ月かかります。そのため、払い戻しを受けるまでは立て替え払いをしなければなりません。毎月22万円もの出費はAさんの家計に重くのしかかりました。
Aさんのように外来での支払いが高額になったときに活用したいのが「高額療養費受領委任払い」です。この制度は、患者が医療機関の会計窓口に自己負担限度額を納めると、加入する医療保険から残りの医療費(高額療養費の還付金分)が直接、医療機関へ納付される仕組みです。Aさんの場合は、8万4000円を窓口で支払えば、残りの13万6000円は加入する公的医療保険が負担してくれます。
この制度の利用に当たっては、保険料の未納や滞納がないなどの条件があります。また、公的医療保険によっては実施していない場合がありますので、詳しいことは加入する公的医療保険の窓口にお問い合わせください。


入院治療の場合は、あらかじめ医療機関に「限度額適用認定証」を提出することで、医療機関の会計窓口での支払いを、高額療養費の自己負担限度額までとすることができる制度があります。
この仕組みは、高額療養費受領委任払い制度と同じで、加入する公的医療保険により高額療養費の還付金分が直接医療機関に納付されるため、患者の窓口負担額は自己負担限度額までとするものです。したがって、この制度を利用すれば、退院後に高額療養費の払い戻しを申請する必要はありません。
患者さんの中には、医療機関の請求書を受け取ってから申請の手続きを行う人も少なくないようですが、限度額適用認定証は申請月の1日からの適用が原則であるため、必ず入院前に申請の手続きを行ってください。
また、いずれの制度でも限度額適用認定証の交付を行っていますが、保険料を滞納していると原則交付されません。詳細については、加入する公的医療保険の窓口にお問い合わせください。
なお、70歳以上の高齢者が入院治療を受けた場合は、かかった医療費からあらかじめ高額療養費の還付金分を差し引いた金額(自己負担限度額)が請求されるため、限度額適用認定証の手続きを行う必要はありません。
以前は入院して行われていた治療や検査が外来で実施されるようになり、外来患者の経済的な負担が大きくなっています。また、効き目は高いけれど、その分高価な薬剤も多くなってきました。特に、治療が長期化するがん患者の間で治療費の問題は深刻です。
高価な薬剤を長期間服用しなければならない人は、薬の処方を90日の長期処方に変更することで薬剤費の支払いが3カ月に1回で済むようになります。そうすると、高額療養費を上手に利用することで、毎月処方された場合よりも年間に支払う薬剤費の自己負担額を軽減できることがあるようです。薬剤費の負担が大きい人は、薬の処方を行う担当医やソーシャルワーカーに相談してみましょう。
さらに、治療費のサポートで頼りになるのが民間の医療保険ですが、日数の制限があったり、治療の状況や内容によって給付の対象外になったりすることもあるので、健康なうちに自分が加入する保険の保障内容を確認しておきましょう。
また、金融庁の調査によると、生命保険の給付金の請求漏れ件数で最も多かったのが通院給付金で、請求漏れ発生金額で最も多かったのが三大疾病(がん・脳卒中・心筋梗塞)による給付金でした。このような請求漏れにも注意する必要があります。
治療中は、民間の医療保険の給付金請求まで気が回らないものですが、入院中に保険契約が失効するケースも少なくないようなので、失効を防ぐ観点からもなるべく早めに請求したほうがよさそうです。
医療費の支払いや経済的な問題で困ったときは、福祉の専門家であるソーシャルワーカーに相談しましょう。社団法人日本医療社会事業協会のウェブサイトの会員マップでは、同協会員のソーシャルワーカーが在籍する医療機関等が検索できます。「ソーシャルワーカーに相談したいけれど、どこにいるのかわからない」といった場合には、助けになってくれるはずです。
渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
医療ライター
愛媛県生まれ。京都女子大学卒業。医療系出版社を経て、フリーランスに。医療・看護・介護分野を中心に編集・執筆に携わる。共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』『知っておきたい病気の値段のカラクリ』(共に宝島社刊)などがある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。現在、朝日新聞山梨県版で医療コラム「医療の現場から」